カテゴリー 22021年採択

認定特定非営利活動法人 育て上げネット

対象者数 3000名 | 助成額 849万円

https://www.sodateage.net/

Program若者の孤立無業化予防のためのキャリア教育プログラム
Life Connection ライフコネクション

 Life Connectionは、若者の孤立予防を目的として開発したプログラムである。イメージしにくいこの先の将来をワーク形式でシミュレーションしていく。その過程を通して、「想定外の出来事」が起きたときでもつながることのできる場所があることを知り、一人ではない心強さを感じ、さらには生徒自身が望む生き方・望まない生き方を考えるきっかけを提供していく。

<プログラムの特徴>

・シミュレーションゲーム形式 
 どのような生徒でもゲーム感覚でチャレンジすることができ、他人の人生を通じて自分を客観的に見ることができる。

・リアルな人生&リアルなハプニング 
 学校では教えてくれない、人生における予期せぬ出来事とそのアクシデントを救う「お助け人・場所」が分かる。

・豊富な社会資源を網羅 
 人生のハプニングや悩みを解決してくれる相談場所・支援機関の存在を知り、グループワークを通じて紹介し合うことで、困っている人を助けることを学ぶ。

・認定ファシリテーター制度 
 保護者でも先生でもない、普段出会うことのない第三の大人との出会いは、生徒の視野を広げ、これからの人生を考えるきっかけをつくることにつながる。

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“社会のリアル”を、社会に出る前の高校生たちに伝えるプログラム

「え~また無職だ」「どうしよう、家族が病気になっちゃった」ゲーム形式でのライフシミュレーションを楽しむ高校生たちの笑顔の奥に、『決してあり得ないことではない』との不安感も垣間見える。「でも、そんな時に相談できるところがあるんだって!」お助けカードで示される支援機関の情報に向けられる視線は真剣だ。

 認定NPO法人育て上げネットが提供する「Life Connection(ライフコネクション)」は、若者の孤立予防を目的として開発されたプログラム。「その目的は、2つ」と、同法人の執行役員を務める深谷友美子さんは語る。「1つは、人生のシミュレーションを通して、生き方の多様性に気づいてもらうこと。2つ目は困ったときに必要な助けを求めるための情報(社会資源)を提供して、将来、不本意に孤立しないよう予防することです」。

 実際、プログラムに参加した生徒たちからは「自分が望まない人生にならないよう、どうすべきかを考えるきっかけになった」「ハプニングが起こった際に相談できる場所を知っているだけでも気持ち的に違う」などの感想が聞こえる。また、立ち会った先生方からも、「重いテーマになりがちだが、生徒たちはゲーム感覚で楽しめていた。一方で、楽しいだけで終わらず、生徒の自立に役立つ情報が得られた」「人生の多様さや、生徒たちの価値観を知るきっかけになり、私たちにとっても勉強になった」と好評を博している。

プログラムは生徒同士の対話を軸としたグループワークで行われる。受講した生徒の大多数からは前向きな評価が聞かれるが、同時に「社会に出るのが不安になった」といったネガティブな声も。そうした生徒たちをフォローするのもファシリテーターの役割だ。

カードゲーム形式で10代から60代までの人生をシミュレーションし、多様な人生を体感しながら、いざという時につながる場所・存在があることを理解できるプログラムとなっている。

社会に出る前の高校生に「転ばぬ先の杖」を提供する社会的意義

 若者の自立支援・就労支援をテーマに掲げ、主として無業状態の若者を対象としたサポートを展開してきた育て上げネットが、その予防策とも言える本プログラムを開発したのは2010年のこと。その背景には、同法人が支援した約3,000人のデータから得られた、「いったん無業状態になり、社会とのつながりを絶たれると、その期間が長いほど、改めて社会とつながるのが難しくなる」との分析があるという。「つまずいた人たちを支援するのはもちろん、つまずく前に“転ばぬ先の杖”を提供することも大切だと考えたのです」と、同プログラムを担当するプロジェクトマネージャー、横山理恵さんは語る。

  企画当初は女性の若年無業者を対象に開発したプログラムだったが、関係者から「このプログラムは性別を問わず、できるだけ早い段階で提供するのがよいのでは」との後押しを受け、2015年に主に高校生を対象としたプログラムにリニューアルし、提供を開始したという。しかしながら当初は、学校現場の反応は薄かったという。「先生方からすれば『あえてネガティブなことを伝えなくとも』との想いもあったでしょうし、2コマの授業時間を使ってまで実施する必要性が理解しづらかったのだと思います。ところが、コロナ禍で若者の孤立が加速するとともに、ヤングケアラーなどの社会問題が表面化するにつれて、急速に学校現場からのニーズが高まってきました」と横山さんは語る。

「これまでは、いわば卒業前に贈るメッセージとして、卒業年次を対象に実施するケースが多かったのですが、学校になじめなかったり、家庭の事情があったり、さまざまな理由で不登校や中退になる生徒もいることから、まだ学校とのつながりがあるうちにと、1年生など早い段階で実施したいという要望も増えています」と横山さんが語るように、より早期の提供を求められ続けてきたという事実が、このプログラムの社会的意義を雄弁に物語っている。

「Life Connection」など教育支援事業を統括する、執行役員の深谷友美子さん。「未来を担う若者たちが、社会に絶望してもらいたくない」との想いから同事業に携わっただけに、常に若者目線に立ち、プログラムの提供・実施に際しても、生徒を第一に考える姿勢を徹底しているという。

キャリアコンサルタントやファイナンシャル・プランナーとしての経験を活かし、プロジェクトマネージャーを務める横山理恵さん。自身が「Life Connection」のファシリテーターを務める際は、「生徒たちから、こんな人になら相談してもいいと思ってもらえるように」と心がけているという。

より多くの若者に、より助けとなる情報を伝えていくために

 2019年度は20校にとどまっていた「Life Connection」の実施高校数は、2022年度には35校まで拡大し、高校以外にも少年院や児童養護施設、若者支援施設などでも実施している。同法人がWebサイトなどで告知に努めるとともに、教育関係者の間で口コミによる評価が広がり、学校からの問い合わせは増え続けており、リピート率も高いことから、目標とする100校を超える日も遠くないだろう。

 こうした社会からの要請に応えるべく、同法人では受け皿の拡大と質の向上を同時に進めている。まず取り組んでいるのが、進行役となる認定ファシリテーターの養成だ。同じく高校生を対象とした金銭基礎教育プログラム「Money Connection®(マネーコネクション)」と併せて、ファシリテーター養成講座や、その前段となる体験・説明会を各地で開催している。養成にあたって重視しているのが、「生徒の発言や発信を無視しない」「大人の価値観を押し付けたり、ジャッジしない」「多様性を踏まえ、性別や見た目による決めつけをしない」といった心構えだという。「認定ファシリテーターは、単なる進行役ではありません。プログラムを通じて生徒たちに、社会には保護者や先生など身近な存在以外にも、たくさんの人が見守っていることを伝える役割を担っているのです」と横山さんは語ります。

 一方で、プログラムのさらなる進化にも取り組んでいる。教育や行政、自殺予防NPOなど各分野の有識者によるアドバイザリーボードからの助言を得ながら改善を重ねるとともに、続編となる「ライフコネクションplus」を開発中だ。現状のプログラムでは支援機関の存在を伝えるところで終わっているが、そこから一歩進めて、相談という行動に移すまでを伝えていきたいという。「これまでの活動を通じて感じているのが、若者にとっての相談することへのハードルの高さ。コミュニケーションに苦手意識を持っていたり、社会や大人への信頼感が乏しかったりして、なかなか行動に移せないケースが少なくありません。また、すでに誰かに相談しても解決されなかったという経験から、社会に対して諦めてしまっている若者もいます。そんな若者たちに『だけじゃない』というメッセージを送るのがプログラムの重要なテーマです。その人だけじゃないし、その場所だけじゃない。その方法だけじゃないから、諦めないで相談してほしい。そんなメッセージを伝えていきたいと思います」と深谷さんは語る。

 次代を担うはずの若者たちが孤立し、ひきこもりや自殺など、目を覆いたくなるニュースが増えるなか、同法人の取り組みが広く社会に浸透し、若者たちがつまずいても絶望することなく、次の一歩を踏み出すことができる、そんな社会が実現することを切に期待している。

金融機関との連携による金銭基礎教育プログラム「Money Connection®(マネーコネクション)」や、若者に身近な携帯電話を題材に多様な職業を紹介する就労支援プログラム「Mobile Connection」など、「Life Connection」以外にも幅広い教育支援事業を展開している。

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