カテゴリー 22021年採択

一般社団法人 未来キッズコンテンツ総合研究所 

対象者数 1000名 | 助成額 800万円

https://miraikidslab.org/

Program競技会形式で最新のAI /ICT関連技術を競う
「シンギュラリティバトルクエスト」

 これまで、ロボコンや競プロ、コンテストや資格試験など、活動の目的がさまざまだった高校のパソコン部、プログラミング部、情報処理部、eスポーツ部など、コンピューターを駆使する部活動を「ギーク系部活」と称し、そこに参加する生徒を対象に、情報科学に関する技術領域を競技化。パートナー大学の監修を得て大会が独自に開発した五つの競技種目で総合的な知識と技術を競うAI/ICTのインターハイ。情報科学に興味関心が高く学ぶ意欲のある高校生に、「勝負に勝つ」という動機を与えることで、主体的・自発的・協同的な学びを支援する産学連携のプログラムである。 

 

<プログラムの特徴>

・対象はAI/ICTに興味・関心を持つAI初学者の高校生 

・五つの競技種目から生徒の興味関心に合った技術領域を選択できる 

・事前学習から決勝大会まで完全オンラインのため、コロナ感染のリスクが低い 

・参加資格は「国内在住の高校生」。地域、性別、学年、学力、貧困、障がい等の格差を解消 

・国内の最先端企業の教育担当エンジニアが競技・教材を開発し研修を実施 

・フジテレビ/FOD等※で放送・配信することで参加意欲をアップ 

 

<五つの競技種目>

【AQ】AIクエスト/【CQ】サイバークエスト/【DQ】データクエスト/【RQ】ロボクエスト/【XQ】Xクエスト

 

※フジテレビが運営するインターネットテレビ(VOD)・電子書籍配信サービス

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活動レポートReport

最新のAI/ICTをワクワクしながら実践的に学ぶ日本唯一の競技大会

  2022年9月・10月にかけて、第3回全国高校AIアスリート選手権大会 「シンギュラリティバトルクエスト2022」の地区予選がオンラインで行われた。本大会は、パソコン部、ロボコン部などで活動する高校生が総合的なAI/ICTの知識や技術、チームワークを競う日本で唯一の総合的な競技大会だ。18歳以下の高校生であれば、地域・性別・学力・障がい等に関係なく参加できる。

 クエスト(ゲームにおけるクリアすべき課題)と呼ばれる大会の競技は五種目から成り立ち、「AIモデルの予測精度や速度(AIクエスト)」「情報セキュリティに関する知識と技術(サイバークエスト)」「データから社会的に有用な知見を抽出するためのスキル(データクエスト)」「ロボット制御のためのプログラム作成などロボットテクノロジー関連(ロボクエスト)」「人とコンピュータの相互作用に関するUI/UX、HCI※1、デザイン思考関連(Xクエスト)」をテーマに大会の協力パートナーである企業や教育関係者がそれぞれの競技を開発し、eスポーツとして演出。例えばAIクエストでは、選手は事前に機械学習により「じゃんけんの手」を画像認識するAIモデルを作成し、当日はそのAIモデル同士でじゃんけんバトルを行う。競技形式にしたことで、最新のAI/ICT関連技術をワクワクしながら実践的に学ぶことができる。

 地区予選では、必須のAI基礎問題と共に、五種目の内エントリーした競技(地区予選はCBT方式)に挑戦。トライアルタイムは各25分間で、終了後は出題者の解説が行われる。今回からは大会の出身者(高校卒業生)3人がインターン生として問題作成に携わった。その内の一人、芝浦工業大学1年生の大塚卓柾さんは第0回からの参加者だ。中学の頃からAIなどに興味があり、学校の電子技術研究部に入ったが、物足りなさから学校外のイベントに参加してみたという。「第0回では成績を残せなかったんですが、全国にはすごい高校生がいると知れたこと、また専門知識を持っている社会人との接点がすごく面白かったんです」と話す。第0回が終わった後には気が付いた点や改善点などを事務局にフィードバックするほどの熱量で、第1回には友人とチームを結成して参加し、見事総合優勝を飾った。「AIに興味があっても独学するしかなく、孤独を感じていた自分を大きく変えてくれたのがこの大会。同じような状況にある高校生たちに広く知ってもらいたいし、自分にできることがあればと、協力させてもらうことになりました」と話す。この間まで高校生だった大塚さんも感じていたこの状況に対する「危機感」。それがこの大会を動かす大きな原動力になっていると、大会を運営する未来キッズコンテンツ総合研究所の武藤裕介さんは話す。

 

※1 UI:ユーザーインターフェースの略。ユーザーが見たり触れたりして接する部分のことを指す。UX:ユーザーエクスペリエンスの略で、ユーザーがサイトや製品、サービスなどを通じて得られる体験や経験のこと。HCI:ヒューマン・コンピュータ・インタラクションの略で、人とコンピュータの関わり合いに関する学問領域の1つ。

※2 Computer Based Testingの略で、コンピュータのディスプレイに問題が表示され、マウスやキーボードを使って選択肢を選んだり、答えを入力したりして解答する

作問を担当したAI基礎問題の解説を行う大塚さん。解説者への質問はZOOMのチャット、専用のLINEオープンチャットからできるようになっている。

海外に後れを取る現状への危機感

 武藤さんはシンギュラリティバトルクエストの前に、小学生を対象としたプログラミング競技会「GPリーグヤマハ発動機プログラミングコロシアム」を立ち上げている。「その時に、大人でも苦戦する情報処理資格者試験に受かった小学4年生や、ビットコインの売買サイトを作ってしまう6年生の子どもたちと出会ったんです。たいてい、子どもたちは独学でそこまでのレベルに達していて、そこに至るまでもまたその後も、子どもたちの可能性を育てる環境はまだまだ日本では整備されていない。こうした状況を招いたのは紛れもなく、われわれ大人であり、子どもたちのために何ができるのか真剣に向き合わなければいけないんです」と話す。

 日本では、AI等を用いた新ビジネスを創造する「AI人材」の不足が懸念されており、政府が2019年にAI人材の育成を含めた「AI戦略」を打ち出した。しかし実際には大塚さんが話すように、学校におけるAIやITの教育環境がまだ整備されていない、もしくはデジタル世代の子どもたちの成長に大人が追い付いていないのが現状であろう。サイバークエストの競技開発を担当する協力企業、日立ソリューションズ・クリエイトの上野貴之さんは、「そうした現状に対する危機感や、好奇心や趣味で得た優れた知識や技術を存分に発揮してもらう場をわれわれ大人が用意することで、違う未来が見えてくるんじゃないかというお話を武藤さんから聞き、当社のCSR活動に通ずるものがあると感じました」と協力の経緯を話す。

 武藤さんはIT分野のイベントなどに足を運び、こうした協力者を集め、シンギュラリティバトルクエスト第0回を2019年に開催した。武藤さんは、「私はテレビ番組も制作しているのですが、視聴者の反応を見るため、パイロット版(第0回)を作ります。この大会も同じで、ゼロから作るのは大変だけど、一があれば周囲は良いとか悪いとかジャッジできるし、もっと上手にできるよという人も出てきてくれる。活動を広げるためにはプロトタイプを作り、旗を振ることが重要。おかげで三菱みらい育成財団のような日本のAI人材育成に危機感や課題を持っている団体、企業や教育関係者が集まってくれたわけです」と話す。

第2回の決勝戦のロボクエストでは、選手は事前にメタバース上のコースで「バーチャルAIカー」を機械学習させ、コース一周のタイムを競った。

第1回、第2回の決勝戦の模様は、大会公式YouTube、FOD(フジテレビオンデマンド)にて無料配信されている。番組制作にはフジテレビが全面協力し、新しい競技大会の演出に出演者、スタッフが一丸となって取り組んだ。

競技開発者も驚くほどの成長を見せる高校生たち

「昨年参加したら思った以上に面白かったので今年も参加してみました」と、今回2回目の参加となったワオ高校の酒井天志さんと松坂華那さんは複数の種目にエントリー。地区予選の結果、無事に二人ともAIクエストで岡山代表として決勝戦へと進んだ。二人の参加を後押しした同校のAIコース責任者の栗谷真亮さんは、「当初はこれまで学んできたことを発表する場にしたいと思って参加を促したのですが、大会の中身を知って、参加すること自体が学びになる、バトルを通してスキルを磨いていることがわかりました。実際、この二人も大会をきっかけに自分たちで調べて勉強する力が大きく伸びました。この大会は“正しい答えを教えてくれる場”ではなく、“(生徒が自分の能力に開眼する)きっかけを与えてくれる場”なんだと思います」と話す。

 前回の決勝大会の模様を伝える番組(『第2回全国高校AIアスリート選手権大会「シンギュラリティバトルクエスト2021」プレイバック・ザ・フューチャー』)でのアフタートーク企画で、競技開発者が上位に入賞した高校生にどのような準備をしてきたのか質問した際には、その回答に「下手なデータサイエンティストよりすごい(データクエスト)」「今すぐ企業で仕事ができる(AIクエスト)」と驚き、競技開発者が選手のレベルの高さに舌を巻く場面が多く見られた。前出の日立ソリューションズ・クリエイトの上野さんも同企画で、「(サイバークエストで)予選の問題は毎年同じレベルにしているのですが、年々得点率が高くなってきています。回を重ねるごとにレベルが高くなっていますね」とコメントしているが、大会のレベル向上の要因のひとつに、参加を通して刺激を受けた、バトルを通して強くなった選手たちがリピート化し、翌年の大会に挑んでいることが挙げられる。また、そのような選手を含む「AIアスリート(総合的なAI/ICTスキルを磨き上げた人間に対する大会の呼称)」全体の強化施策(ボトムアップ)として、大会の運営が地区予選用のオンライン教材、オリエンテーションや研修などを実施して徹底的に選手をサポートしていることも、大きな要因であろう。

大会の今後と来るべき「シンギュラリティ」の時代に向けて

 武藤さんは、「これまでの参加者はまだ小中学校でプログラミング学習を体験していない世代。これから参加してくる選手はさらなるITリテラシーを身にまとい、大会を通して相互に桁違いの反応を起こすのでは」と大会の今後に期待を寄せるが、運営については前出の大会出身者(高校卒業生)のようなインターン生にかかっていると話す。「高校を卒業したばかりの彼らの方が、圧倒的に高校生に近い感覚で良いものが作れるはず。運営についても次何をすればいいんですか、という指示待ちではなく、こういうことをやりたいと言いたくなる環境作りがわれわれ大人の役割で、今回インターン生の3人はまさにそういう姿勢で取り組んでくれたんです。やってきたことは間違いじゃなかったと思えた瞬間でした。彼らは私たち大会関係者にとっての宝です」。

 大会の名称が冠する「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉は、AIが人類の知能を超える転換点やそれによって起こる世界の変化を表しているが、そのような時代を他ならぬ自分たちの手で作り、生き抜いていく子どもたちと一緒に、この先も大会は進化を続けていくことになりそうだ。

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