みらいTALK Vol.2

対談 鹿児島県立福山高校×富山県立高岡南高校 校内に外の風を入れて、生徒・教員・組織を変えていく

探究活動を校内で取り組むだけでは、活動の幅も生徒たちの視野もなかなか広がらない、
しかし外部との連携の仕方が分からない。このような課題に対する先進的な取組み事例を基に、
助成先の2校の先生方に対談していただきました。※役職名は取材当時のものです

探究活動を持続させていくための
取り組みとは

妹背今回お話しいただくテーマは「外部との連携」についてですが、まずは高岡南高校の取り組みについて教えていただけますか。

笹川2022年度でいうと、シリコンバレーの企業の方からのアントレプレナーシップ講座、地元の企業訪問、高岡市と連携した地域探究、また、富山県立大学や大学コンソーシアム石川に加え、富山大学薬学部、大阪大学外国語学部に協力いただいての講演や実習を行っています。国際理解研修で国際ビジネスの現場を経験された方にお話をいただいたり、データサイエンス研修を実施したりもしています。これまで新たな取り組みは、石橋をたたくような慎重さで進めていたのですが、今まで連携がなかった方面でのつながりもできてきて、思い切った取り組みができる環境にもなってきました。

妹背ありがとうございます。

折田先生は、学校の活動を支援する体制として一般社団法人を立ち上げられていますね。その狙いについて教えていただけますか。

折田2021年に一般社団法人域産官学共創機構を立ち上げ、現在、鹿児島の企業や高校等12団体が会員になっています。立ち上げた狙いの一つは、高校の“自前主義”からの脱却です。公立学校だと、探究活動の中心となっていた先生や理解のある校長先生が異動した後、探究活動が下火になった、という話も聞きます。地域社会と連携した探究活動の持続性を保つためには、「校内で完結させる」という考え方には限界があります。前校長が「外からの風を入れよう」と言ってくれたのは非常に心強かったですね。 二つ目は、リソースの分配という面です。プロジェクトに対する適切な講師の派遣やDXの展開など、学校によって必要なニーズは異なるため、実態に沿った産官学による支援のリソースを分配できる機能が必要と考えました。例えば本校では、メンターとして慶應義塾大学の学生に毎週協力してもらっているのですが、大学へのツテがない、お互いの想いがマッチングしないという高校も多いかと思います。そうしたときに社団法人によるコーディネート機能が有効に機能します。 「域産官学共創機構」という社団法人の名称は、教育に投資しないと地域や日本社会は変わらないと考える企業や行政のコミュニティー、プラットフォームが今後の日本の教育に必須だと思い、名付けました。

 このような想いの下、仲間集めから活動がスタートしたのですが、幸いなことに学校の近くに、地域貢献には人材育成が必要という志を持っていたトヨタ車体研究所があり、すぐに組織のマネジメントを専門的に学んだ元役員の方や従業員の方を本校に派遣してくれました。また、鹿児島のプロバイダー会社であるシナプスがルーターを貸してくれたり、スターリンクを実証実験で設置してくれたりするなどIT環境を整備してくれました。この2社からの支援が呼び水となり、トヨタカローラ鹿児島や鹿児島トヨタ自動車など、他企業も賛同してくださったことで、本校の探究活動は大きく前進しました。今も社団法人の会員になって地域の未来の人材育成に支援をしたいという企業が増え続けています。

笹川一般社団法人をつくるという発想はなかったので驚きました。確かに探究活動をどう持続させていくかは、本校でも課題となっています。中堅の教員が育ってきているので、探究担当者一人だけではなく、中堅教員も一緒になって動くような形にしていければと考えています。

折田中堅教員がいらっしゃるのは心強いですね。ただ全国的には、非常勤や再雇用の先生が増えて年齢の偏りが出ている学校も多いのではないでしょうか。そこで本校では、地域や学校の先輩が後輩にプロジェクトの支援を引き継いでいくという仕組みを構築するため、1・2学年とすべての学科を同じ時間帯の授業にすることで、課題ごとのグループによる探究活動を展開しています。これは鹿児島で有名な、異年齢による教育である郷中教育(※)をお手本にしました。

笹川本校はいわゆる大規模校ではないものの、地元のネットワークを広く持つPTAの存在が特徴の一つかもしれません。年々入れ替わっていく約20人のPTA役員は、実に多様な人材で構成されており、外部との連携もPTAが強力にバックアップしてくれています。これまでわれわれの方が勝手に線を引いて、連携を躊躇していたところもあったのかなと最近は思っています。外とのつながりが増えていく中で、生徒たちも変わっていって、最近では生徒から先生にこういうことがしたいと提案するということも出てきました。

折田そうした生徒たちの動きが先生たちを巻き込んでいきますよね。

笹川外とのつながりを求めようという教員の変化があれば、生徒たちも変わってくる。その相互作用はありますね。

※武士の子どもたちが異年齢混合のグループ(郷中)をつくり、互いに教育し合う、薩摩藩の人材教育法
鹿児島県立福山高等学校 商業担当 折田 真一氏

鹿児島県立福山高等学校 商業担当
折田 真一

時間がないのではなく、
つくれない学校での働き方を見直す

折田組織を変えていくという面では、トヨタ車体研究所の役員OBの方に、今は一般社団法人所属の立場で来ていただいています。今年度からは生徒への支援だけでなく、教員とも「実社会で求められる探究力」について対話の機会を持ってもらうなどの支援も頂いています。企業が求めている人材について共有することで、教員にとっても教育の先にあるものは何かという意識を持てるようになりました。ただ、教員と外部の持っているリソースは違いますから、教員が専門外という意識を持ってしまい、つい外部に任せっきりになってしまうということはよく起こることです。外部と連携する上で、その点は特に気を付けなければならないポイントだと思っています。

 また、教員の業務改善のアドバイスもしてもらっています。私は起業したり民間企業で働いたりしていた経験がありましたので、本校で探究活動を始める前に先生たちに「組織がつぶれる原因はお金がない、時間がない、能力がない、という三つの言い訳をして、行動に移さないことです」と少し厳しい話をしました。そして、まずは三菱みらい育成財団をはじめ県や社団法人から活動資金を引っ張ってきた。「時間」については、業務改善に定評があるトヨタから教えてもらおうと。要は学校という組織は、「時間がない」のではなくて「時間がつくれない」状況で、企業にとっては当たり前の「アワーレート」や「業務工数」の概念がない。それをトヨタ車体研究所でマネジメントを担っていた方々から先生たちに伝えていただいています。

笹川なるほど…。確かに学校では、経費重視で、人件費をあまり気にしないという風潮がありますよね。

妹背ちょっと話題は変わりますが、外部コーディネーターの活用についてはいかがですか? ニーズに合致したコーディネーターを見つけてくるのがなかなか難しいという声もよく聞きます。

折田コーディネーターとして来校いただいている方は、トヨタ車体研究所の元役員をしていた方なので、組織のマネジメント力、事業戦略に長けていらっしゃいます。そのような高い能力やスキルを持って会社を引退した方たちが全国にたくさんいるはずですが、学校だけだと民間との接点がないので教育現場とのマッチングができてない。一方、社団法人だと人材バンク、またはマッチング機能も持たせることができます。

 ただ、地域社会の未来のための人材育成に、覚悟を持って取り組んでいるという責任を、学校とコーディネーターがお互いに持つ必要があり、ボランティアでは駄目だと考えています。しかし、そうなると予算が足りていないし、行政が関わるといろいろな制約がかかる場合が多い。もっと人材を流動的にしていく仕組みが必要です。

富山県立高岡南高等学校 物理担当 笹川 正浩氏

富山県立高岡南高等学校 物理担当
笹川 正浩

他校との連携は
“経済圏”で考える

妹背福山高校は、隣接市の曽於高校や宮崎県都城市の都城西高校と連携されていますが、なぜその2校と連携されているのですか?

折田私は他校との連携は経済圏ですべきだと考えています。確かに両校とも本校とは異なる行政区にありますが、歴史を紐といていくと、都城市から鹿児島市へ伸びる国道は曽於市や霧島市を中継した物流街道であったり、生活基盤を支える産業はお互いに連携していたりと密接に関わっており、今でも同じ経済圏として機能しています。3校とも、地域に愛着を持ってもらい、郷土に貢献する人材を育成するという共通の目的を持っています。子どもたちが例え一時的に県外に出たとしても、戻ってきて同じ経済圏で連携できるビジネスコミュニティーに発展させることが必要です。そうした将来を見越して、今から仕組みづくりをしていくことが大切だと思っています。

 また、日本の地方、特に中山間地区では「地域活性化」が課題となっていますが、地域のビジネスを支える20~50代の世代は自分の子どもを魅力ある高校に入れたいはずです。つまり、魅力ある高校がなければ、生産年齢人口は集まってこない。高校の魅力化と地域活性化は常に一体と言えます。ビジネスとして地域を先導できる人材を育成する仕組みが地域と学校にあるかどうかが大切です。本校の探究活動名「福山みらい創業塾」に「創業」という言葉を入れたのは、学習の成果を実社会で通用する社会的インパクトのあるビジネスを展開できる人材を育てるためでもあるんです。

笹川経済圏の中での他校とのつながり、社団法人の立ち上げなど、今までにない視点で、本校の活動への示唆も頂けました。昨年度は、新規開拓の1年で、企業・行政・大学等、さまざまな方面にお願いをし、計画していることを実現することができましたが、一方で事業を立ち上げ、実施することで目いっぱいであり、今回お話を伺って、人材や施設設備、歴史など、まだまだ地域の資産などを活用できていないことに気付けました。今年度はさらに地域の方々とのつながりを深め、商工会などと連携して事業の発展を計画していきたいと思います。

折田私も笹川先生のお話を聞けて、学校によって置かれている環境がさまざまだということを感じました。でも生徒たちが変わっていく姿を見て先生たちが変わっていくというのは、おそらくどこの学校にも当てはまるのではないでしょうか。新しいことにチャレンジしようとしたら不安も課題もある。生徒たちがそこを乗り越えた姿を見て、先生が変わって、組織が変わっていく。そんな風になっていけば、いろいろな壁を乗り越えていけるのではないかなと思えました。

笹川私も今日富山から伺って、雄大ながら厳しい自然の中で郷中教育を通してリーダーを育ててこられた鹿児島の素晴らしさを感じることができました。ありがとうございました。

2023年7月13日 鹿児島県立福山高校にて
折田 真一氏と笹川 正浩氏
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